金髪ボブでエプロンの少女

それは、開店から1時間ほど過ぎた、落ち着いた時間帯のことだった。
ちりん、と控えめに鳴るベルの音。
制服でもなく、業者でもない。だが、ただの客とも思えぬ圧。
「……失礼。少しだけ、時間をもらうわ」
そう言ってカウンターに現れた金髪の女性たち。
整った容姿と冷静な瞳、そして微かに香る完璧主義の風。
最初はハンバーガーを注文しようとしていたはずなのに、ふと厨房を見て、眉をひそめた。
「その補充、非効率ね。具材の取り出しは、動線を最短にしたほうがいいわ」
「えっ、あ、はい……」
「あと、冷蔵庫の開閉回数が多すぎる。1時間あたり12回以内に抑えると、冷気の消耗を約13%削減できるわ」
「そ、そんなデータどこに……？」
「さっきスマホで本部のログインページを見つけたから。簡単よ」
有無を言わせぬそのオーラに、スタッフたちは徐々に敬語になっていく。
いつのまにか、彼女は店長用のタブレットを手にしていた。
納品履歴を見ながら「ここは納入業者と再交渉できるわね」とメモを取り、
売上表を開いて「曜日別に強化する商品を分けたほうが効果的」と提案し、
ついにはホワイトボードに今日のシフトを貼り直していた。
「この人数で15時のピークは回せない。私、裏にも入るわ。制服、借りていい？」
「い、いいけど……あの、わたし……わたしが店長なんですけど……っ！」
もともとの店長が、半泣きでつぶやく。
しかし、その言葉に振り返り、ふわりと微笑んだ。
「大丈夫、わたしはただ、あなたがもっといい店長になるように助けているだけよ。肩書きなんてどうでもいい。大切なのは中身よ」
――完璧だった。
接客、オペレーション、在庫管理、全てがスムーズに流れていく。
閉店後。
泣いていた店長は、深く頭を下げて言った。
「……ありがとうございました。もうちょっと、自分を磨いてみます」
にこりと微笑んで一言だけ返した。
「あなたなら、きっともっと良くなれるわ」
そして、ひとつのわっくバーガーを手に、静かに店を去っていった。
「……味も、意外と悪くなかったわ」
その言葉に、店長は、また泣いた。