本日のランチ
ビーフシチュー定食
――煮込みの深さは、皿の温度に宿る
煮込み料理は、時間だけで勝てるわけではない。
鍋の中で積み重ねたものを、最後に“皿の温度”で崩してしまうことがある。
ビーフシチューは、その難しさを正直に見せる料理だと思う。
運ばれてきた器から、まず香りが立つ。
赤ワインの奥行きと、炒めた香味野菜の甘い気配。
ソースは濃い色だが、重さより先に「温かい」と感じる。
この時点で、提供温度がきちんとしていると分かる。
スプーンを入れると、粘度はちょうどよい。
とろみで押し切るのではなく、スプーンにまとわりつく程度で、余韻を残しながら引いていく。
口に含むと、苦味がない。焦げや煮詰まりの雑味がなく、味が丸い。
時間をかけた料理ほど、こういう“角のなさ”が頼もしい。
肉は柔らかい。だが、柔らかいだけではない。
繊維がほどけるところまで煮込まれていながら、旨味が抜けていない。
噛むと肉の味が残り、同時にソースに肉の気配がきちんと溶けている。
肉とソースが分離していないのがいい。
野菜も、煮込みの中で役割がある。
人参は甘みを、じゃがいもは温度を、玉ねぎは全体を丸くする。
マッシュルームの香りが、洋の輪郭を保っている。
ライスと合わせると、シチューはさらに落ち着く。
ソースを吸わせすぎず、一口ずつ往復する。
“定食”としての食べ方が自然に決まるのは、ソースの粘度が整っているからだろう。
サラダがあるのも助かる。
濃厚な余韻の合間に、口の中がリセットされる。
小ぶりのコンソメは、輪郭を澄ませる最後の一手だ。
ビーフシチューが主役でありながら、定食として破綻しない設計になっている。
煮込み料理は、優しい顔をして実は難しい。
この一膳は、時間だけでなく温度まで味方にしたビーフシチューだった。
■ 締めの一文(編集後記的まとめ)
煮込みの美味しさは、柔らかさだけでは測れない。
香りと温度が保たれてこそ、時間は“深さ”になる。
■ 次回予告(1/30掲載予定)
次回の食彩探訪は、
「カレーライス定食(サラダ+コンソメ) ― スパイスの輪郭と、日常の熱」。
派手な料理に見えて、毎日でも食べられる形に落とすのが難しい。
辛さ、香り、粘度、そして後味。
“定食屋のカレー”の基準点を確かめたい。
次回もまた、日常の真ん中を食べに行く。
呪文
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