硝煙の匂いが、まだ空気に残っていた。
雨が降り始め、その匂いをゆっくりと押し流していく。

七メートル級のロボットが、戦場の中央に立っている。
大きな球体の胴体。太く、たくましい四肢。
各部に露出した人工筋肉は、戦闘を終えたいまも微かに脈打っていた。
右腕に備えられた大型機関砲の銃口からは、細い煙が立ち昇っている。

周囲に、仲間の機体はない。
残ったのは、この機体と――彼女だけだった。

装甲が軋む音を立てて開く。
内部から姿を現したのは、白を基調としたロボット用スーツに身を包んだ女性だ。
均整の取れた体つきは女性的であるが鍛えられた筋肉の硬さを隠していない。

ヘルメットは顔面までを覆い、前面には大きな赤いレンズ。
その後頭部からは、太いコードが数本伸び、なお機体とつながっている。
脳波制御――人と兵器を直結するための、切り離せない生命線だ。

赤いレンズが静かに周囲を走査する。
敵機はすべて撃破。
そう判断して、ようやく一息ついた。

雨脚が強まる。
燃え残る火を消し、戦場を等しく冷やしていく。
突然、無線が割り込んだ。

「コードレッド。コードレッド。
本部が襲撃されている。
救援を要請――救援を要請――」

ノイズに歪んだ声が、そこで途切れる。

彼女は即座に機体へ戻った。
パイロット席に身を沈めた瞬間、物言わぬ機械の前面装甲が降りてくる。
仮面をかぶるように、視界が閉ざされた。

意識を絞る。
集中する。

後頭部から伸びる太いコード――人工神経へ、命令が流れ込む。

――動け。

機械の心臓が、低く唸りを上げて鼓動を再開した。
人工筋肉が張りつめ、次々と起動していく。
赤い瞳に、光が灯る。

沈黙していた巨体が、再び動き出す。
彼女を乗せて。

正義がどちらにあるかなど、関係ない。
味方が死のうと、敵が死のうと。

自分が、幸せに生きるため。
そして、手が届く人々を守るため。

ただ、守る。

全力で。

弾が尽きようと。
筋肉が断たれ、四肢をもがれようと。

赤い瞳の光が消える、その瞬間まで。

呪文

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