「見て見て!お姉ちゃんから借りちゃった。どう?似合う?」

カナは部屋の真ん中で、ふわりと水色のワンピースの裾を広げた。視線の先には、呆れ顔でソファに座る幼馴染のハルトがいる。

「……似合うけどさ。それ、歩けるのか? かかと、めちゃくちゃ高いぞ」

「失礼ね!これくらい、レディの嗜みなの。……わわっ!?」

自信満々に一歩踏み出した瞬間、カナの足首がグニャリと外側へ向いた。慌ててスカートを掴んでバランスを取る。

「ほら見ろ、生まれたての小鹿みたいになってるじゃないか」

「う、うるさいわね!これは……そう、この靴に『慣らし運転』が必要なだけ!」

「靴に運転もクソもあるかよ。そもそも、そのベルトもガバガバじゃないか?」

「いいの!こうしてキュッと力を入れれば……ふんぬぬぬ……っ」

カナは顔を真っ赤にして、細い足首に全神経を集中させた。膝が小刻みに震えている。

「……カナ、プルプルしてるぞ」

「し、してない!これはドレスのドレープが揺れてるだけ!優雅な揺らぎなの!」

「顔が全然優雅じゃないけどな。鼻の頭に汗かいてるし」

ハルトがニヤニヤしながら立ち上がり、カナの目の前で手を差し出した。

「ほら、レディ。転んで膝を擦りむく前に、僕の手でも使いますか?」

カナは一瞬、悔しそうに唇を噛んだが、結局おそるおそるその手を握った。

「……エスコート、感謝するわ。でも、勘違いしないでよね!私が転びそうだからじゃなくて、あなたが寂しそうだったからなんだから!」

「はいはい。じゃあ『レディ』、その震える膝をなんとかしながら、リビングまでお茶でも飲みに行きましょうか」

「笑わないでってば!」

背伸びしたヒールの音は、カツカツとぎこちなく、けれどどこか楽しげに廊下へ響いていった。

呪文

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