「あれっ? 電車がホームにいるよ・・・ラッキー! 予定の電車に乗れるよ!」
「5分も遅延している・・・JRにしては珍しいな・・・」
「いいの! いいの! 兎に角、予定の電車に乗れたからね。じゃあ、また明日ね!」
「ああ、また明日な・・・」
彼女は笑って軽く手を振った。俺も軽く右手を上げて返した。
そして、明日は来なかった・・・

2006年5月の列車事故、運転士の疲労と遅延の焦りから運転速度を大幅に超過、カーブを曲がり切れず脱線し線路わきの建物に衝突した。
乗客・乗員の500人以上が死傷した大事故だった。
彼女は2両目に乗っていた・・・らしい・・・らしいとは、2両目は本当に潰れて・・・身元確認は歯形やDNA鑑定しかなかったのだ・・・
電車の車体は高さ1メートルほどに圧縮された・・・生存者は一桁しかいなかった。
ああ、彼女の降りる駅では2両目が出口に一番近い。
乗ったのは5両目だったのに、前の車両に移動した・・・まるで誰かに呼ばれるかのように・・・
彼女の棺には、血まみれの学生鞄をしっかり握る右手首が入っていた。
彼女がそこにいた証は、鞄内の生徒手帳や定期券が証明し、親族だけで静かに見送られたと聞いた。

もし、あの時に戻れるものなら・・・君の乗る電車を・・・
今年でもう20年になる。毎年命日に墓参りに行く。
彼女の両親に会う事もあるが、軽く会釈だけで通り過ぎる。今年は父親だけだった・・・
俺はいつも思う・・・

もし、あの時に戻れるものなら・・・君の乗る電車をひとつ遅らせるだろう・・・

※このお話はフィクションです

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