都内の某大学、理学部の動物行動学研究室。夜のキャンパスは静まり返り、廊下の蛍光灯が時折ジジッと音を立てる。研究室の一角では、白衣姿の教授と大学院生がノートパソコンを囲んでいた。

「先生、例の定点カメラのデータ、今夜分が届きました」

学生がUSBメモリを差し込み、フォルダを開く。山奥に設置された赤外線カメラの映像が、無音で再生され始める。画面には、獣道とも言えないような斜面が映っている。風もなく、木々は静止している。

「……あれ、これ人間じゃないですか?」

教授が身を乗り出す。画面の中、スーツ姿の女性が映っていた。肩にバッグをかけ、パンプスのまま、無表情で斜面を登っている。時刻は午前2時過ぎ。周囲に街灯も道もない。

「登山者じゃないな。こんな服装で、こんな時間に……」

学生が映像を一時停止する。女性の顔が画面いっぱいに拡大される。目は虚ろで、口元はわずかに開いている。次の映像では、セーラー服の女子高生が現れた。スマートフォンを手に持っているが、画面は点いていない。彼女もまた、無言で山の奥へと歩いていく。

「これ、複数人いる……しかも、服装が全部“日常”なんですよね。登山用じゃない」

教授は眉をひそめ、映像を巻き戻す。別の時間帯には、エプロン姿の若い主婦が裸足で歩いていた。足元には小枝や石が散らばっているが、まったく気にしていない様子だった。

「……これは、動物の行動じゃない。人間の……いや、“人間のようなもの”の行動だ」

研究室の空気が変わる。蛍光灯の光が妙に冷たく感じられた。学生がそっと窓のブラインドを下ろす。

「先生、これ……誰かに報告しますか?」

「いや、まずは追加の映像を確認しよう。何か、見落としてるかもしれない」

画面の中、女子高生がふと立ち止まり、カメラの方を向いた。その目は、確かに、何かを“見ていた”。



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