サプライズプレゼント

「アリスさん、本日のスケジュールをお伝えします」
ヘッドホンから流れ出すAIアシスタントの明瞭な声に、アリスはうなずいた。宇宙ステーション「スターライト」では、乗員の1日が分単位で細かく計画されている。地球を離れてから数ヶ月が経つ今でも、アリスはこの忙しさに少しずつ慣れつつあった。
「午前8時、植物生育実験。午前9時、太陽風観測データ分析。午前10時、船体外部点検」
AIはそう告げ、アリスは手際よく準備を整えていった。実験と観測が連続する日課は肉体的にも精神的にも大変だが、かつてないこの宇宙生活に誇りを感じていた。
「了解しました」とアリスは応え、実験モジュールへと向かった。地球とは全く異なる環境の中でのルーチンワークには、新鮮な刺激が隠されていた。
午前中の作業を終えたアリスは、船内服に着替え居住区へ戻ると、届いたばかりの食事パッケージが目に止まった。いつもと異なるパッケージに、彼女は興味をそそられた。
「これは…?いつもの液体栄養食じゃないのね？」アリスはそのパッケージを手に取った。
宇宙ステーションでは通常の食事は栄養摂取の効率化や消化器官への負荷を減らす目的で、液体栄養食が主食となっていた。
アリスは見覚えのないデザインが気になった。
「アリスさん、本日6月X日はご自身の誕生日でしたね」AIアシスタントが収録された音声で話しかけた。
「あら、そうだったの?忙しくてすっかり」アリスは応える。
「故郷からの誕生日プレゼントです」AIが説明すると、パッケージから愛情込めて梱包された故郷の料理と、家族からの手書きメッセージが現れた。
「愛する我が子へ、おめでとう!頑張る姿を誇りに思っている。この料理であの頃を思い出してくれ」
アリスは手紙を手に取り、思わず熱くなった目元を拭った。さらにAIが家族の音声メッセージを再生した。
「アリス、おめでとう!いつも頑張っているあなたを応援しているよ」
母の優しい声が流れ出すと、宇宙の孤独は一瞬で吹き飛んだ。家族の温かさと、故郷の香りに包まれた。
アリスは窓の外を見つめながら、大切な思い出の味を堪能した。この特別な時間こそが、毎日のルーチンワークを乗り越える源泉となった。
アリスは久しぶりに故郷の食事を楽しんだ。

食事を終えて家族との思い出にふけっているとAIの声が再び響いた。
「アリスさん、午後の業務をお伝えします」
「わかった」アリスは微笑み、家族の愛に力をもらいながら、新たな決意を胸に刻んだ。
地球と繋がる絆を確かめつつ、彼女は次なる任務に旅立った。