(前の話)
【マタタビ】30.夜明け
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「お帰りなさいませ、ご主人様! お嬢様!」
俺とシロがポームムに戻ると、メイドたち全員が俺たちを出迎えた。
「お怪我はありませんか? 心配しておりました!」
メイドたちは、シロを取り囲み、無事を確かめる。シロは、歓迎に慣れていないからか、少し照れたように答えた。
「うん、大丈夫。ありがとう」
メイドたちは、ほっとしてシロを撫でたり、抱き着いたりして労った。メイドたちがシロを囲んでいると、先に店に戻っていたラポームが、店の奥から現れた。
「はい! 皆さん、お静かに!」
その言葉で、メイドたちは一列に綺麗に整列する。シロも慌てて整列する。
「シロさん、クロさん、こちらへ」
ラポームは、シロと俺に前に出てくるように促す。シロは、首を傾げながらラポームの前に移動する。俺もその後に続く。
「シロさん、今回の件よく頑張りましたね。旅人であるあなたは、巻き込まれただけにも関わらず、この世界を守るために勇敢に戦ってくれました」
すると、メイドたち全員が拍手でシロを褒め称えた。シロは、照れたようにモジモジしている。
「クロさんも。小さい体ながら、シロさんを守るために、勇敢に戦ってくださいました」
そして俺にも、メイドたち全員から拍手が送られた。思っていたより気恥ずかしいもので、俺は、軽く頭を下げる。
「そして、そんな勇敢なシロさん、クロさんに、私たちからご褒美があります!」
そう言って、ラポームは、後ろを振り返る。ラポームの後ろから、シルエラが木製のワゴンを運んできた。そのワゴンに載っていたのは、見たこともないほど巨大なパフェだった。目の前にそびえ立つそれを見て、シロは目を輝かせた。
「ポームム限定の、スペシャルパフェでございます!」
ラポームがそう言うと、メイドたちが拍手で盛り上げる。世界を救った報酬としては、大したものではない気もするが、シロはとても喜んでいるので良しとしよう。
シロは、テーブルに着き、スプーンを手に待ちきれないようにうきうきしている。特大パフェは、メイド2人がかりで持ち上げられ、シロの目の前に置かれる。そして、俺の目の前にもシロほど特大ではないが、パフェが盛り付けられた豪華な皿が置かれた。
パフェにかぶりつこうとしたシロは、ラポームに止められ、食事の前の挨拶をするように促される。そして、シロはスプーンを置き、姿勢を正して手を合わせる。
「いただきます」
そして、チラッとラポームを見て、ラポームが笑顔で頷くのを確認し、シロは嬉しそうに、パフェをほおばった。
「こんな美味しいもの食べられるなんて! 私、生きていてよかった!」
シロは、頬に手を添えながら、笑顔でそう言った。
「大げさだな」
俺は、呆れてため息をつく。だが、案外、緩やかに終わりを迎えるこの世界で、俺たちがまだ生きている理由は、そんなものかもしれない。美味しいものに出会い、綺麗な景色を見て、新しい人と出会う。俺は、シロと一緒にそんな旅をこれからも続けられることが嬉しかった。
ふと、窓の外を見ると、特大パフェに載った生クリームのような入道雲が見えた。俺は、舌なめずりをし、目の前のパフェに載った生クリームをペロリと舐める。ふわふわの生クリームは、濃厚なのにスッキリとした後味で、俺は不覚にも思ってしまった。
生きていてよかった——と。
(Our journeys will continue.)