「……空がない。天井の向こうに、空が見えないんだ」

俺は、黄金のシャンデリアが放つ非現実的な光の下で立ち尽くしていた。

「ここでは空も、地も、ただの飾りに過ぎませんから」

背後から響いたのは、透き通るような、けれど温度を感じさせない少女の声。

「君は……人間か?」

「ふふ。さて、どう見えるでしょうか」

青い着物を揺らしながら、少女は俺の周りを軽やかに舞うように歩いた。その瞳は、深い海の底のように凪いでいる。

「ようこそ、異邦の旅人様。ここは宵闇の果て、迷い込んだ魂が最後に行き着く、安らぎの繭でございます」

「最後、だと……? 俺は死んだのか?」

「いいえ。ただ、少しだけ世界の綻びから滑り落ちてしまっただけのこと」

少女は白い花のような手先で、俺の肩にそっと触れる。その手は、驚くほどひんやりとしていた。

「私はツムギ。貴方様が『自分』を思い出すまでの間、お世話をさせていただきます」

「思い出す……? 自分の名前なら……」

俺が言葉を詰まらせると、ツムギは優しく微笑んで首を振った。

「焦らないで。ここでは『合格』も『不合格』もございません。ただ、流れるままに、この宿の調べに身を委ねてくださいませ」

彼女が袖を翻すと、廊下の奥から現実にはありえないほど芳しい花の香りが漂ってきた。

「さあ、こちらへ。温かいお茶をご用意しております。貴方様が失くしてしまった『欠片』、一緒に探しましょうね」

呪文

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