真夜中の十二時、鈴音の時計が止まった。それは彼女の休日が終わる合図だった。二十九歳の誕生日以来、不思議な現象に悩まされている。休日が終わる瞬間だけ、時間が止まるのだ。

 「また始まった」と鈴音は呟く。窓の外を見ると、街全体が静止画のようだ。行き交う人々、車、そして風に揺れる木々まで。日本海側の山村で育った鈴音は、都会の時間の流れ方に未だ馴染めないでいた。

 凍った世界の中、唯一動けるのは彼女だけ。時計の針が動き出すまでの間、鈴音は街を彷徨う習慣がついていた。

 今夜も彼女は静かに部屋を出る。通りに出ると、コンビニの前で佇むさわやかな制服姿の男性店員が目に入った。彼もまた、止まった時間の世界で動けるのだ。

 「今夜もですか」と男性は穏やかに微笑む。彼の名は篠田。休日もなく働き、時折このような「時間の狭間」に捕らわれるのだという。

 「故郷では、こんなことはなかったんです」と鈴音は言う。

 「山の時間と都会の時間は違います。特に休日の終わりは」と篠田は応える。

 二人は凍結した街を歩きながら、それぞれの故郷の話をする。篠田も地方出身だった。都会の喧騒に疲れているのは鈴音だけではないらしい。

 「休日が終わるのが怖いですか?」と篠田が尋ねる。

 鈴音は考え込む。「怖いというより、寂しいのかも」

 時計の針が再び動き始める気配を感じる。時間の狭間は終わろうとしていた。

 「また会えますか?」と鈴音が問うと、篠田は微笑んだ。

 「わたしは、いつもここにいますよ」

 時間が再び流れ始めると、篠田の姿は消えていた。だが鈴音の心には、次の休日の終わりを待つ小さな期待が灯っていた。


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Claude Sonnet Ex 3.7.
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