迷探偵オートロック・ホームズの手記より抜粋
第一章:「迷いの扉を開けて」
全ての事件は解決に導くべく開かれた扉の先に存在する。だが、私は常にその扉を見失い、誤った方向へ進むことが多い。それは私の無能さゆえではない。運命が私を「迷探偵」として導いたからに違いない。
その日、私は例のごとくロンドンの路地裏を彷徨っていた。霧が立ち込め、街の音は全て遠くに感じられた。私の目の前に立ちはだかったのは、古ぼけた木製の扉であった。何の変哲もないこの扉が、後に私を数ヶ月間迷走させることになるとは、その時の私は知る由もなかった。
ドアノブに手をかけた瞬間、背後から何者かの視線を感じた。振り向くと、そこには誰もいない。しかし、風に流れる紙片が舞い上がり、私の足元にひらりと落ちた。
「オートロック・ホームズへ」
その文字を目にした時、私の探偵としての勘がピリリと動いた――いや、迷探偵としての勘と言うべきだろうか。
手紙にはこう書かれていた。
「次の事件の扉は、既に開かれている。」
私は一瞬立ち尽くした。扉はまだ開けていないはずだが、手紙はそう告げている。この謎を解く鍵は、きっとこの扉の先にある。私は確信を胸にドアノブを回し、扉をゆっくりと押し開けた。
だが、開けた瞬間に目の前に広がったのは、何もない真っ暗な空間だった。壁も床も天井もない、ただ無限の暗闇――そして、その中央にぽつんと浮かぶ一つの鍵があった。
「鍵を手に入れることができたなら、この事件は解決するのだろうか?」
そんな問いを胸に、私は迷わずその鍵を掴んだ。すると、突然目の前の暗闇が消え、私は再びロンドンの路地に立っていた。手には先ほどの鍵が残されていた。
「ふむ、どうやらこれが新たな迷走の始まりのようだな」と、私は一人呟きながらも、胸の高鳴りを隠せなかった。
私の推理はいつも迷走する。しかし、その迷走の果てにこそ、真実は隠されている。そう信じ、私は再び歩き出した。