本日のランチ

12月24日｜鶏もも肉の炭火焼き 塩麹仕立て定食
文・田嶋（食彩探訪）

年の瀬が近づくこの時季、私が惹かれたのは「香ばしさ」を真正面から味わえる一膳だった。
今日の主役は、鶏もも肉の炭火焼き 塩麹仕立て。名前だけで期待が膨らむが、皿の上にはさらに説得力がある。皮目は飴色に照り、ところどころに炭の焦げ跡。立ち上がる香りが、すでに白米を呼んでいる。
まずは何も付けずに一切れ。
箸を入れた瞬間、表面のカリッとした抵抗が指先に伝わり、噛むと中は驚くほどしっとり。塩麹の仕事は「塩味」ではなく、肉の甘みと旨味を底上げすることだと改めて思う。鶏もも特有の脂は軽やかで、炭火の香ばしさが後味を引き締める。焼きの強さと麹のやさしさ——このバランスが実に上手い。
ここで私は、ご飯へ一直線には行かない。
次に試すのはレモン。酸味を“足す”のではなく、“輪郭を整える”ためにほんの少し。すると皮目の香ばしさがさらに立ち、脂の甘みがくっきりする。続いて、薬味（ねぎ）を添えてもう一切れ。香りのレイヤーが増し、炭火の余韻が伸びる。
そしてようやく白米。——これが、たまらない。噛みしめるたびに、米の甘みが鶏の旨味を受け止め、口の中で「焼き鳥丼の最高に品の良い版」が完成する。
副菜と汁物の配置も抜かりがない。
青菜の小鉢は口の中をリセットし、味噌汁は温度で満足感を底上げする。主菜が強いほど、周りが騒がない構成が効く。香の物も少量で十分。私はこの日、主菜の香ばしさを最後まで主役として残す食べ方を選んだ。
炭火焼きは、豪快に見えて実は繊細だ。
火の入れ方一つで硬くもなるし、脂も重くなる。だがこの皿は、焼きの強さを見せながら、身はふっくら、後味は軽い。年末の一皿にふさわしい「力強さ」と「品」が同居していた。

次回予告
次回の『食彩探訪』は、**冬のごちそう“海の恵み”**へ。
衣の音、香り、そして中身の瑞々しさ——揚げの技が光る定食を訪ねます。

香ばしさは、腹を満たすだけじゃない。
年末の気持ちまで、きゅっと温めてくれる。