第1章 王都ギルドの元気すぎるヒーラー
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第1章 王都ギルドの元気すぎるヒーラー
セントラリア王国の朝は、いつも少しだけ騒がしい。
白い石畳の道には商人たちの声が飛び交い、焼きたてのパンの匂いが路地に広がる。
王城へ続く大通りでは馬車が行き交い、遠くの鐘楼からは澄んだ鐘の音が鳴っていた。
剣と魔法が息づく大陸、ロルディア。
その中央にある王都セントラリアには、今日も多くの冒険者が集まっていた。
そして、その冒険者たちが集う場所――冒険者ギルドは、朝からすでに大混雑だった。
「セレスティア! 包帯あと三つ!」
「はいはい、今持ってく!」
「セレスティア、こっちの薬草どこ?」
「棚の上! 青いやつ! 赤いのは腹痛用だから間違えないで!」
「セレスティアちゃん、俺の昼飯知らない?」
「知らない! っていうか治療室で昼飯食べないで!」
金髪の少女が、治療室の中を右へ左へ走り回っていた。
名前はセレスティア・アーデルハイト。
赤いケープに白いブラウス、黒いスカート。
腰には小さなポーチをいくつも下げ、手には聖なる宝珠がついた杖を持っている。
冒険者ギルド所属のヒーラー見習い。
ただし、見習いとはいっても腕はかなりいい。
切り傷、打撲、火傷、毒、魔力酔い。
だいたいの怪我なら、彼女の回復魔法でどうにかなる。
問題があるとすれば――
「セレスティア、また受付の手伝いしてたのか?」
「だって人が足りなかったんだもん!」
「治療室も人が足りてないんだけど?」
「だから今戻ってきた!」
――困っている人を見ると、なんでも手伝ってしまうところだった。
受付嬢のミラは、書類の山を抱えながら深いため息をついた。
「ほんと、あんたはじっとしてられないね」
「じっとしてるより、動いてた方が楽しいじゃん」
「その結果、毎日バタバタしてるんだけど」
「でも、なんとかなってる!」
セレスティアはにこっと笑った。
ミラは呆れたように眉を下げる。
「その“なんとかなる”精神、いつか大事故起こすよ」
「大丈夫! 事故っても私が治す!」
「自分で事故起こして自分で治すな」
そんなやり取りをしていると、ギルドの正面扉が勢いよく開いた。
バンッ!
「依頼達成! 北門近くの牙狼、三体まとめて倒してきたぜ!」
明るい声がギルドに響く。
入ってきたのは、銀灰色の髪をした少年だった。
年齢は十六歳ほど。
青緑のフード付きマントを羽織り、腰には長剣。
背中には旅用のバッグをかけ、茶色のブーツには乾いた泥がついている。
少年は得意げな顔で受付へ歩いていった。
「報酬、よろしく!」
ミラが依頼書を受け取る。
「レオン・アークライト。牙狼三体の討伐確認……って、あんた腕」
「ん?」
レオンと呼ばれた少年は、自分の左腕を見た。
袖のあたりが少し破れ、赤く染まっている。
「あー、これ? 平気平気。ちょっとかすっただけ」
その瞬間、治療室の方から声が飛んだ。
「平気じゃない!」
セレスティアだった。
彼女は包帯を片手に、ずんずんレオンへ近づく。
「血、出てるじゃん」
「いや、このくらい剣士なら普通だって。名誉の傷ってやつ」
「名誉でも傷は傷。はい、座って」
「え、今?」
「今」
「報酬もらってからでよくない?」
「血を止めてから」
「腹減ってるんだけど」
「治してから食べればいい」
「なんか強いな、君」
「怪我人には強いよ」
セレスティアはレオンの腕をつかみ、そのまま治療室へ引っ張っていった。
周りの冒険者たちが笑い出す。
「おーい、レオン。新人ヒーラーに捕まったな」
「逃げても無駄だぞー」
「セレスティアに見つかった怪我人は終わりだ」
レオンは振り返って叫ぶ。
「助けろよ!」
冒険者たちは声を揃えた。
「無理!」
セレスティアは満足げにうなずいた。
「ほら、みんなもそう言ってる」
「いや、そういう問題じゃなくてさ!」
「座る」
「はい」
レオンはなぜか逆らえず、治療用の椅子に座った。
セレスティアは手際よく革手袋を外し、袖をまくる。
傷は思ったより深かった。
鋭い爪で引っかかれたような跡。
さらに傷口の周囲には、黒い靄のような魔力が薄く残っている。
セレスティアの表情が少しだけ変わった。
「これ……普通の牙狼じゃないね」
「わかるのか?」
「うん。ちょっと変な魔力が混じってる」
「へえ。すごいな」
レオンは素直に感心した。
「見ただけでわかるんだ」
「治療する側は、傷の感じでだいたいわかるよ」
「じゃあ、俺がどれくらい強いかも傷でわかる?」
「うーん」
セレスティアは真剣に考えるふりをした。
「無茶するタイプ」
「強さじゃなくて性格じゃん」
「合ってるでしょ?」
「……まあ、ちょっとだけ」
「ちょっと?」
「かなり」
「よろしい」
セレスティアは杖の宝珠をレオンの腕に近づけた。
青白い光がふわりと広がる。
傷口を包むように光が流れ、黒い魔力を溶かしていく。
痛みがすっと引いていき、裂けていた皮膚がゆっくり閉じていった。
レオンは目を丸くした。
「おお……すご」
「動かないで」
「いや、すごいって。全然痛くなくなった」
「だから動かないでって」
「これ、あったかいな」
「聞いてる?」
「聞いてる聞いてる」
「絶対聞いてない」
セレスティアは少し頬を膨らませた。
レオンはそれを見て、楽しそうに笑った。
「君、名前は?」
「セレスティア。セレスティア・アーデルハイト」
「長いな」
「じゃあセレスでいいよ」
「俺はレオン。レオン・アークライト」
「知ってる。さっきみんな呼んでた」
「じゃあ自己紹介いらなかったな」
「いるよ。一応」
二人は顔を見合わせて笑った。
治療室の空気が、少しだけ明るくなる。
セレスティアは包帯を巻きながら言った。
「今日のところは激しい運動禁止」
「え」
「剣の練習も禁止」
「ええ」
「酒場で腕相撲も禁止」
「なんでそれ知ってんの?」
「昨日も怪我して来た冒険者が言ってた」
レオンは気まずそうに目を逸らした。
「……あれは勝負の流れで」
「禁止」
「ちょっとだけなら」
「禁止」
「見学だけ」
「絶対参加するでしょ」
「する」
「ほら」
セレスティアは包帯の端をきゅっと結んだ。
「はい、終わり」
レオンは腕を回してみる。
「ほんとに痛くない。ありがとな、セレス」
その一言に、セレスティアは少しだけ目を瞬かせた。
それから、にっと笑った。
「どういたしまして。次は怪我する前に避けてね」
「それができたら苦労しないって」
「剣士でしょ?」
「剣士だけど、敵も動くんだよ」
「じゃあもっと頑張れ」
「厳しいな!」
二人のやり取りを、受付からミラがじっと見ていた。
そして小さくつぶやく。
「……相性いいじゃん」
その声は、二人には聞こえていなかった。
その日の夕方。
レオンはギルドの食堂で、大盛りのシチューとパンを前にしていた。
「やっぱ依頼終わりの飯は最高だな」
勢いよくパンをちぎっていると、向かいの席にセレスティアが座った。
「隣、空いてなかった」
「向かいも空いてなかったのか?」
「空いてたけど、ここがよかった」
「なんで?」
「腕、ちゃんと動かしてないか見張るため」
「まだ見張るのかよ」
「治療した人には責任があるから」
「真面目だなあ」
「レオンが不真面目すぎるだけ」
「失礼な。俺はかなり真面目だぞ」
「どのへんが?」
「飯を残さない」
「それはいいことだけど、剣士の真面目さとは違う気がする」
レオンは笑いながらシチューを口に運んだ。
セレスティアもスープを飲む。
しばらくして、レオンがふと思い出したように言った。
「そういえば、あの黒いやつ。やっぱ変だったのか?」
セレスティアの表情が少し真剣になる。
「うん。普通の魔物の魔力じゃなかった。瘴気に近い感じ」
「瘴気?」
「古い遺跡とか、魔力が淀んだ場所に出るやつ。体に入ると熱が出たり、魔法が乱れたりする」
「それ、わりと危なかったんじゃないか?」
「だから平気じゃないって言ったじゃん」
「たしかに」
レオンは少しだけ考え込んだ。
「北門の森、前はあんな感じじゃなかった。牙狼も変に凶暴だったし」
「ギルドに報告した方がいいね」
「もうした。明日、追加調査が出るかも」
セレスティアは目を輝かせた。
「追加調査!」
「なんで嬉しそうなんだよ」
「だって本格的な冒険っぽい!」
「危ないんだぞ?」
「回復役がいれば安心でしょ」
「まさか来る気か?」
「うん」
「いやいや、森だぞ。魔物出るぞ」
「だからレオンが前に出るんでしょ?」
「まあ、そうだけど」
「私は後ろで治す。完璧」
「そんな簡単に言うなよ」
「大丈夫。なんとかなる!」
レオンは少し黙ったあと、吹き出した。
「セレスってさ、怖いもの知らず?」
「怖いものはあるよ」
「たとえば?」
「空腹」
「それは俺も怖い」
「あと、薬草棚の整理をサボった後のミラさん」
「あ、それはたぶん本当に怖いやつ」
二人は同時に笑った。
食堂の窓の外では、夕焼けが王都の屋根を赤く染めていた。
その光を見ながら、レオンはなんとなく思った。
このヒーラーと一緒なら、明日の調査も退屈しなさそうだ。
同じ頃、セレスティアも思っていた。
この剣士と一緒なら、危ない場所でもきっと楽しい。
もちろん二人とも、それが何か特別な感情の始まりだなんて、まだ気づいていない。
翌朝。
ギルドの掲示板に、新しい依頼書が貼り出された。
そこには、こう書かれていた。
北門の森にて異常魔力を確認。
原因調査および魔物の追加討伐。
推奨人数、二名以上。
前衛職一名、回復職一名の同行を推奨。
レオンは依頼書を見上げ、にやりと笑った。
「前衛職一名」
その横にセレスティアが立つ。
「回復職一名」
二人は顔を見合わせた。
「行くか」
「行こう!」
こうして、銀灰の剣士と元気すぎるヒーラーの初めての共同依頼が始まった。
それが、ロルディア大陸を揺るがす大冒険の始まりになるとも知らずに。
セントラリア王国の朝は、いつも少しだけ騒がしい。
白い石畳の道には商人たちの声が飛び交い、焼きたてのパンの匂いが路地に広がる。
王城へ続く大通りでは馬車が行き交い、遠くの鐘楼からは澄んだ鐘の音が鳴っていた。
剣と魔法が息づく大陸、ロルディア。
その中央にある王都セントラリアには、今日も多くの冒険者が集まっていた。
そして、その冒険者たちが集う場所――冒険者ギルドは、朝からすでに大混雑だった。
「セレスティア! 包帯あと三つ!」
「はいはい、今持ってく!」
「セレスティア、こっちの薬草どこ?」
「棚の上! 青いやつ! 赤いのは腹痛用だから間違えないで!」
「セレスティアちゃん、俺の昼飯知らない?」
「知らない! っていうか治療室で昼飯食べないで!」
金髪の少女が、治療室の中を右へ左へ走り回っていた。
名前はセレスティア・アーデルハイト。
赤いケープに白いブラウス、黒いスカート。
腰には小さなポーチをいくつも下げ、手には聖なる宝珠がついた杖を持っている。
冒険者ギルド所属のヒーラー見習い。
ただし、見習いとはいっても腕はかなりいい。
切り傷、打撲、火傷、毒、魔力酔い。
だいたいの怪我なら、彼女の回復魔法でどうにかなる。
問題があるとすれば――
「セレスティア、また受付の手伝いしてたのか?」
「だって人が足りなかったんだもん!」
「治療室も人が足りてないんだけど?」
「だから今戻ってきた!」
――困っている人を見ると、なんでも手伝ってしまうところだった。
受付嬢のミラは、書類の山を抱えながら深いため息をついた。
「ほんと、あんたはじっとしてられないね」
「じっとしてるより、動いてた方が楽しいじゃん」
「その結果、毎日バタバタしてるんだけど」
「でも、なんとかなってる!」
セレスティアはにこっと笑った。
ミラは呆れたように眉を下げる。
「その“なんとかなる”精神、いつか大事故起こすよ」
「大丈夫! 事故っても私が治す!」
「自分で事故起こして自分で治すな」
そんなやり取りをしていると、ギルドの正面扉が勢いよく開いた。
バンッ!
「依頼達成! 北門近くの牙狼、三体まとめて倒してきたぜ!」
明るい声がギルドに響く。
入ってきたのは、銀灰色の髪をした少年だった。
年齢は十六歳ほど。
青緑のフード付きマントを羽織り、腰には長剣。
背中には旅用のバッグをかけ、茶色のブーツには乾いた泥がついている。
少年は得意げな顔で受付へ歩いていった。
「報酬、よろしく!」
ミラが依頼書を受け取る。
「レオン・アークライト。牙狼三体の討伐確認……って、あんた腕」
「ん?」
レオンと呼ばれた少年は、自分の左腕を見た。
袖のあたりが少し破れ、赤く染まっている。
「あー、これ? 平気平気。ちょっとかすっただけ」
その瞬間、治療室の方から声が飛んだ。
「平気じゃない!」
セレスティアだった。
彼女は包帯を片手に、ずんずんレオンへ近づく。
「血、出てるじゃん」
「いや、このくらい剣士なら普通だって。名誉の傷ってやつ」
「名誉でも傷は傷。はい、座って」
「え、今?」
「今」
「報酬もらってからでよくない?」
「血を止めてから」
「腹減ってるんだけど」
「治してから食べればいい」
「なんか強いな、君」
「怪我人には強いよ」
セレスティアはレオンの腕をつかみ、そのまま治療室へ引っ張っていった。
周りの冒険者たちが笑い出す。
「おーい、レオン。新人ヒーラーに捕まったな」
「逃げても無駄だぞー」
「セレスティアに見つかった怪我人は終わりだ」
レオンは振り返って叫ぶ。
「助けろよ!」
冒険者たちは声を揃えた。
「無理!」
セレスティアは満足げにうなずいた。
「ほら、みんなもそう言ってる」
「いや、そういう問題じゃなくてさ!」
「座る」
「はい」
レオンはなぜか逆らえず、治療用の椅子に座った。
セレスティアは手際よく革手袋を外し、袖をまくる。
傷は思ったより深かった。
鋭い爪で引っかかれたような跡。
さらに傷口の周囲には、黒い靄のような魔力が薄く残っている。
セレスティアの表情が少しだけ変わった。
「これ……普通の牙狼じゃないね」
「わかるのか?」
「うん。ちょっと変な魔力が混じってる」
「へえ。すごいな」
レオンは素直に感心した。
「見ただけでわかるんだ」
「治療する側は、傷の感じでだいたいわかるよ」
「じゃあ、俺がどれくらい強いかも傷でわかる?」
「うーん」
セレスティアは真剣に考えるふりをした。
「無茶するタイプ」
「強さじゃなくて性格じゃん」
「合ってるでしょ?」
「……まあ、ちょっとだけ」
「ちょっと?」
「かなり」
「よろしい」
セレスティアは杖の宝珠をレオンの腕に近づけた。
青白い光がふわりと広がる。
傷口を包むように光が流れ、黒い魔力を溶かしていく。
痛みがすっと引いていき、裂けていた皮膚がゆっくり閉じていった。
レオンは目を丸くした。
「おお……すご」
「動かないで」
「いや、すごいって。全然痛くなくなった」
「だから動かないでって」
「これ、あったかいな」
「聞いてる?」
「聞いてる聞いてる」
「絶対聞いてない」
セレスティアは少し頬を膨らませた。
レオンはそれを見て、楽しそうに笑った。
「君、名前は?」
「セレスティア。セレスティア・アーデルハイト」
「長いな」
「じゃあセレスでいいよ」
「俺はレオン。レオン・アークライト」
「知ってる。さっきみんな呼んでた」
「じゃあ自己紹介いらなかったな」
「いるよ。一応」
二人は顔を見合わせて笑った。
治療室の空気が、少しだけ明るくなる。
セレスティアは包帯を巻きながら言った。
「今日のところは激しい運動禁止」
「え」
「剣の練習も禁止」
「ええ」
「酒場で腕相撲も禁止」
「なんでそれ知ってんの?」
「昨日も怪我して来た冒険者が言ってた」
レオンは気まずそうに目を逸らした。
「……あれは勝負の流れで」
「禁止」
「ちょっとだけなら」
「禁止」
「見学だけ」
「絶対参加するでしょ」
「する」
「ほら」
セレスティアは包帯の端をきゅっと結んだ。
「はい、終わり」
レオンは腕を回してみる。
「ほんとに痛くない。ありがとな、セレス」
その一言に、セレスティアは少しだけ目を瞬かせた。
それから、にっと笑った。
「どういたしまして。次は怪我する前に避けてね」
「それができたら苦労しないって」
「剣士でしょ?」
「剣士だけど、敵も動くんだよ」
「じゃあもっと頑張れ」
「厳しいな!」
二人のやり取りを、受付からミラがじっと見ていた。
そして小さくつぶやく。
「……相性いいじゃん」
その声は、二人には聞こえていなかった。
その日の夕方。
レオンはギルドの食堂で、大盛りのシチューとパンを前にしていた。
「やっぱ依頼終わりの飯は最高だな」
勢いよくパンをちぎっていると、向かいの席にセレスティアが座った。
「隣、空いてなかった」
「向かいも空いてなかったのか?」
「空いてたけど、ここがよかった」
「なんで?」
「腕、ちゃんと動かしてないか見張るため」
「まだ見張るのかよ」
「治療した人には責任があるから」
「真面目だなあ」
「レオンが不真面目すぎるだけ」
「失礼な。俺はかなり真面目だぞ」
「どのへんが?」
「飯を残さない」
「それはいいことだけど、剣士の真面目さとは違う気がする」
レオンは笑いながらシチューを口に運んだ。
セレスティアもスープを飲む。
しばらくして、レオンがふと思い出したように言った。
「そういえば、あの黒いやつ。やっぱ変だったのか?」
セレスティアの表情が少し真剣になる。
「うん。普通の魔物の魔力じゃなかった。瘴気に近い感じ」
「瘴気?」
「古い遺跡とか、魔力が淀んだ場所に出るやつ。体に入ると熱が出たり、魔法が乱れたりする」
「それ、わりと危なかったんじゃないか?」
「だから平気じゃないって言ったじゃん」
「たしかに」
レオンは少しだけ考え込んだ。
「北門の森、前はあんな感じじゃなかった。牙狼も変に凶暴だったし」
「ギルドに報告した方がいいね」
「もうした。明日、追加調査が出るかも」
セレスティアは目を輝かせた。
「追加調査!」
「なんで嬉しそうなんだよ」
「だって本格的な冒険っぽい!」
「危ないんだぞ?」
「回復役がいれば安心でしょ」
「まさか来る気か?」
「うん」
「いやいや、森だぞ。魔物出るぞ」
「だからレオンが前に出るんでしょ?」
「まあ、そうだけど」
「私は後ろで治す。完璧」
「そんな簡単に言うなよ」
「大丈夫。なんとかなる!」
レオンは少し黙ったあと、吹き出した。
「セレスってさ、怖いもの知らず?」
「怖いものはあるよ」
「たとえば?」
「空腹」
「それは俺も怖い」
「あと、薬草棚の整理をサボった後のミラさん」
「あ、それはたぶん本当に怖いやつ」
二人は同時に笑った。
食堂の窓の外では、夕焼けが王都の屋根を赤く染めていた。
その光を見ながら、レオンはなんとなく思った。
このヒーラーと一緒なら、明日の調査も退屈しなさそうだ。
同じ頃、セレスティアも思っていた。
この剣士と一緒なら、危ない場所でもきっと楽しい。
もちろん二人とも、それが何か特別な感情の始まりだなんて、まだ気づいていない。
翌朝。
ギルドの掲示板に、新しい依頼書が貼り出された。
そこには、こう書かれていた。
北門の森にて異常魔力を確認。
原因調査および魔物の追加討伐。
推奨人数、二名以上。
前衛職一名、回復職一名の同行を推奨。
レオンは依頼書を見上げ、にやりと笑った。
「前衛職一名」
その横にセレスティアが立つ。
「回復職一名」
二人は顔を見合わせた。
「行くか」
「行こう!」
こうして、銀灰の剣士と元気すぎるヒーラーの初めての共同依頼が始まった。
それが、ロルディア大陸を揺るがす大冒険の始まりになるとも知らずに。
呪文
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