西郷と勝、未来を語る刻

池上本門寺の境内には、まだ冬の名残を感じさせる冷たい風が吹いていた。しかし、梢に芽吹く新芽が、やがて来る春の息吹を予感させる。明治維新を目前に控えたこの日、西郷隆盛と勝海舟は、歴史を動かす会談のために向かい合っていた。
「江戸無血開城」――それは夢物語ではなかった。
徳川幕府の終焉が迫る中、旧幕府軍と新政府軍の対立は激化していた。戦になれば、江戸の町は火の海と化し、無数の民が命を落とす。だが、勝海舟は徳川の未来を、西郷隆盛は日本の未来を思い、互いに剣を交えるのではなく、言葉を交わすことを選んだ。
西郷は太い腕を組み、じっと勝の言葉に耳を傾ける。相撲取りのような堂々たる体躯に、鍛え上げられた武人の気迫が漲っている。しかし、その瞳には決して奢ることのない誠実な光が宿っていた。対する勝海舟は、痩せた体を少し前に乗り出し、幕府を守るのではなく、新たな時代をいかに築くかを説いている。勝の言葉には、江戸を守ることの重要性と、幕臣たちの命を救うための覚悟が込められていた。
「わしは、日本のために戦を避けたい」
西郷の低く、しかし確かな声が響く。武士でありながら、己の信念を貫く男の言葉だ。勝は静かに頷いた。
そして、時代は流れ、西郷の名は日本の歴史に深く刻まれることとなる。明治維新の立役者でありながら、西南戦争では政府軍と刃を交え、ついには城山の地で命を落とした。その後、彼の功績を称え、「上野の西郷さん」の銅像が建てられることになる。
だが、その銅像を見た西郷の妻・イト夫人は、驚いたように呟いた。
「主人はこのような着流し姿で人前に出るような、礼節に欠いた人ではなかった」
西郷隆盛は常に軍服を纏い、己を律した人物であった。しかし、彼の偉業を後世に伝えようとする人々の思いは、意図せぬ形で「似ていない」という噂を生んでしまった。それでも、西郷の精神は、その姿ではなく、その生き方によって、日本人の心に今も刻まれている。
池上本門寺の風が、ふと止んだ。あの日、西郷と勝が交わした言葉は、確かに日本の未来を変えた。そして、その未来を生きる我々が、彼らの志をどう受け継ぐか――それを問うかのように、春の訪れを告げる陽光が、静かに境内を照らしていた。

能力名：薩摩の守護
自軍の防御力を強化し、士気低下を防ぐ。

能力名：大義の説得
敵部隊を寝返らせる特殊スキルを持つ。