黒髪ロングでエプロンの少女

午後のわくわくドナルドは、不思議な静けさに包まれていた。
あの威光と重圧の女王が帰ったあと、店内に残ったのは一種の「安堵」――まるで嵐の通り過ぎた後の青空のよう。
その扉が、ちりん、と軽やかに開いたとき。
スタッフもお客も、なぜかすぐに気づいた。
「あ、天使……？」
そう誰かが呟いたのも、無理はない。
小柄な体に、きちんと整えた制服。
ほんのり頬を赤らめ、きょろきょろと店内を見渡すその姿。
彼女は、課外授業で訪れたわくわくドナルドに、ふわふわと降り立ったのだ。
「こ、こんにちは……あの、学校の見学で来ました……っ」
小さな声で挨拶しながらも、丁寧に頭を下げる。
スタッフのお姉さんが、優しくエプロンを差し出すと、
「ありがとうございますっ」とぴょこんと頭を下げて受け取った。
彼女の接客は、まだ少しぎこちない。
でも、それが逆に――たまらなく、可愛い。
「こ、こちらの……えっと、わっくチーズバーガーになります……！　どうぞっ！」
ちいさな手でトレイを持ち、お客様に渡す。
その動作の一つひとつに、あたたかい気持ちが宿っていた。
あるおばあさんが、そっと聞いた。
「坊や、お姉ちゃんの手作りバーガーなんて、初めてだねぇ」
すると、少し照れくさそうに笑いながら、
「わたし、まだぜんぜん下手ですけど……みゃー姉に持って帰ったら、喜んでくれるかなって……思ってますっ」
その一言に、店内の誰もがほっこりと頬をゆるめた。
きっと、今日ここにいた全員が、
「みゃー姉」がどれほど愛されているのかを知った。
夕方、課外授業が終わる頃。
彼女は、おみやげ用のわっくセットを大事そうに両手で抱えながら、笑顔で一礼した。
「ありがとうございましたっ。がんばって作りました！」
あの子が帰ったあとの店内には、優しい気配がふわりと残っていた。
まるで、本当に――
天使がひととき舞い降りたかのように。