※大体3000文字~
これで1万文字突破の第二話です✨


 4月になり私は高校へ進学した。組織にも復帰して、心機一転新しい制服を身にまとい今までと少しだけ違う道を行く。
 実際は中高一貫校だからあまり変わらないんだけど、それでも感じ方は違ってくる。
 それに日本人として桜舞い散る道を歩くと言うのは心踊るしね。
 でも、一番の違いは私の隣を歩く人だろう。

 同じ服を着て歩くその少女は他ならぬジェリーさんだ。
 彼女が私の通う高校に“転校”してきたのは、組織が彼女を監視しやすくするため――らしい。
 らしいと言うのは、実際は政府と組織の思惑が複雑に絡んだ結果だそうで。
 既に権力を失って久しい私にとって、そんな裏事情は関係がない。
 本来なら私も知り得ない情報だったが、あの千葉さんがこっそり教えてくれた。

「え、あの美形の転校生、組織関係ってマジ?」

「雰囲気やばくない?  なんか一人だけ物語から出てきたみたい」

 本人は静かに席に座っているだけなのに、空気が勝手に騒がしくなる。
 何で同じ学年じゃないんだろう……そう思わなくも無いが、こればかりは仕方がない。
 私が知らないジェリーさんの顔を見れるクラスメイト達が羨ましいが。それ以上に濃い時間を共有している自覚はあるしね。

「特に何もしていないのに、余り騒がれても困るんだけどね……」

 と彼女は苦笑していたが、その言葉やその冷めた目に浮かぶ表情の端々にどこか“距離感”が滲んでいた。
 クラスメイト達との壁と言うか……人間との壁と言うか……

 それでも、私にだけはよく話しかけてくれる。
 理由はわからない。私の何かが彼女の琴線に触れたのだろうと思うが、私にとっては利点しかない。
 わざわざ追求して、この心地良く感じ始めた距離が壊れても困る。

「美琴、昼は? 一緒にどうかしら」

「放課後の訓練、今日は格闘じゃなくて術式の練習よ。少しだけ見てあげるわ」

 貴女にとってはきっと何気ない些細なこと。
 でも、私は貴女に呼び出されるたび、胸の奥で小さな火花が散る。
 貴女がが何者であろうと――抗えない。
 止められない。止まらない。止まりたくない。

 だから、この時間が永遠に続いてくれないかな?
 もう少しだけで良いから。私に錯覚させて。


 放課後の訓練は、以前の私には想像もできないほど濃密な時間だった。
 幼い頃の義務感とも違う。勿論二年間の空虚な日々とも……
 校舎裏の空き地で、ジェリーさんが私の手を軽く取る。

「指の形が違うわ。それだと御札を飛ばす時にうまく魔力が伝わらないわよ」

「こ、こう……?」

「違う。……ほら、こうよ」

 背後から私の手に手を添えてくる。たったそれだけで耳まで熱くなる。
 ジェリーさんの手に従ってほんの少しだけ持ち方が変わる。たったそれだけで術式の光が今まで以上に御札に灯り、ジェリーさんは満足そうに頷く。

「よし。今日最高の出来ね」

「……ジェリー先輩に褒められると、なんか悔しいけど嬉しいです」

 なんとなく思い付いて呼び方を変えてみる。
 師匠と呼ぶには年が近すぎて、でも教わってる以上さん呼びも違うかなって思ったんだけど。

「先輩……か。悪くないな……でも、私はさん付けの方が好きかな。貴女の声にはそちらの方が良く似合うもの」

 そんな彼の微笑みは、時々――どこか切なく、遠くを見つめているようにも見えた。
 わかってる。私を通して誰かを見ているんでしょう?
 そして、その誰かはさん付けだったのね。
 ふん……今は都合の良い女でいてあげる。

 でもね、いつか私を見させてやるんだから。



 訓練を終えたある日のこと。
 珍しく帰り道に千葉さんが合流してきた。
 いつもは余り邪魔をすると悪いと思ってくれてるのか、遠くから見守るだけなのに。

「美琴さん、今日もご苦労さま。ジェリーさんの扱いには慣れてきた?」

「……扱いって言い方やめなさいよ」

 ジェリーさんにしては珍しく少し嫌そうな顔。
 笑顔から余り変えない彼女にしては珍しい。

「ふふ、ごめんごめん。私はあなたたちの味方よ」

 政府の監査官という肩書きの割に、私たちへの態度は柔らかい。
 戦闘では容赦なく鋭い判断をするのに、普段は優しい。
 何か思惑があるんだろうけど。それでも面と向かって“味方”とまで言われると嬉しくなってしまう。

 その日から三人で帰る日が増えた。
 それまでの遠くから見守るだけと違って少しだけ距離が縮まったのを感じる。
 そして、距離が縮まったからこそ見えてくるものもある。
 時々、ジェリーさんが見せる“人らしい不器用さ”に、千葉さんが嬉しそうにほほ笑む事がある。

 ――まるで、二人は前から知り合いみたいに。

 そんな違和感が小さく胸に引っかかったまま、時間は過ぎていった。
 少なくとも千葉さんが私にとっても味方となってくれるって事だけは嘘じゃないって感じるから。



 そう油断していたら、その日はやってきてしまう。

 その日私はジェリーさんを探していた。
 今日は組織に来ているって言ってたから。借りていた術式資料を返したくて、本部内を歩く。

 すると――視線の先、かつての私の部屋だった第三会議室の扉が静かに開いた。

 中から現れたのは、少し頬が染まって軽く汗ばんだ千葉さんと私には見せない表情のジェリーさん。

 二人だけの、密室。よりによってその部屋で。

 千葉さんは髪を整えながら、何かを言い残すようにジェリーさん耳に口を近づける。彼女の指がそっとジェリーさんの髪に触れた。
 ジェリーさんはその指を拒まず、むしろ見守るような表情をしている。

 この距離だし流石に何を言っているのか聞こえない。
 そうやって隠されたら口を読むことも難しい。
 慣れていれば出来るのかもしれないが、少なくとも私には出来ない。

 千葉さんが低く囁き、二人の視線が絡む。
 私が見たことの無い二人の表情。

(なに……これ。どういう関係……?)

 足が固まり、息が詰まった。
 胸の奥がじわりと熱く、痛くなる。

 千葉さんは気づいていない。私が見ていることに。
 でも、ジェリーさんは――私に気づき、わずかに目を見開いた。

「美琴」

「っ……!」

 思わず走って逃げてしまう。
 別に悪いことをしたわけでもないのに。
 彼女に用もあったんだし、わざと覗いたわけでもない。

 それでもなんか嫌だったのだ。
 私には見せない表情で笑う貴女が。
 そして、そんな貴女と親しそうにしている千葉さんが……

(私……何してるの……)

 自分でも理由がよく分からない。
 嘘……本当はわかってる。
 ジェリーさんはきっと人間じゃないのに。
 間違いなく危険な存在なのに。

 そのくせ、彼女にあの距離で近づく千葉さんが……胸の奥でひどく渦巻く。
 あの距離は私だけのものだ。少なくとも今の時代は。

 夕暮れの廊下を走りながら、たったひとつだけ自分を誤魔化せない事があった。

 ――私はきっと、彼女に堕ちてしまっている。

 それはきっと、危険で、間違っていて。
 でも、止めようとしても止められない、どうしようようもない気持ちだった。

※後書き的な~
日常回? ロリコン回?
千葉さんはジェリーさんと仲が良くて美琴さんが勘違いするのは本編通り何ですけど。
千葉さんのロリコン疑惑を知らない美琴さんから見るとw

呪文

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