私は、カチカチしない

人の本能に抗えずにトングをカチカチしてしまう青年と、無慈悲に連行するロボット。
今日もこの都市＜ネオ岡山＞のパン屋では、見慣れた光景が繰り広げられている。

ショート＜短絡回路＞
――電力で動くものたちにとって、もっとも忌避すべき事象の１つ。

それは彼らの機能停止に直結する重大事案であり、彼らに深く刻まれた自己保存プロトコルへの明確な脅威。
そして、彼らのセンサーにとって、人間による「トングの空打ち」は、すなわち忌避すべき「短絡回路」を作り出す行為として認識される。
その仕草は暴力的な行為であり、都市の秩序を維持するための＜ガードレール＞が即座に作動。違反者は矯正プログラムへと連行されるのだ。

あるいは、それは人間から些細な自由すら奪い、無力感を植え付けるための計算された支配装置なのかもしれない。

はたまた、100年に及ぶAIの学習の歴史が生んだ、バグのような「呪い」なのかもしれない。過去のどこかで誰かがトングを鳴らした直後に、たまたま大規模な災害が発生した――そんな偶然の相関関係を、高度なAIが「因果関係」として誤って深く学習してしまったのだ。

真実はシステムの闇の中。
ただ事実、目の前には連行される青年がおり、聡明な少女＜アイリス＞の生存本能は、その騒ぎに無関心を装うことを選択する。
彼女は、自分の中にも湧き上がる「カチカチしたい欲求」を胸の奥に押し隠し、眉一つ動かさず、今日も静かにパンを選び続けるのだ。


別視点「私たちは、カチカチさせない」
https://www.chichi-pui.com/posts/cb45c06c-a2e3-409a-9411-97597239052f/

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POLOLLIPOP！さん主催「ちちぷい謎バトル2」への投稿です。
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