木陰の休憩

使用したAI ChatGPT
街道脇の大きな樫の木の下で、エリナは外套を広げて腰を下ろした。
白銀の鎧は陽を反して眩しかったが、木陰に入ると、ようやく冷たい金属らしい落ち着いた色を取り戻した。
その隣では、タヌキが前脚を投げ出し、腹ばいになっている。
「暑い」
「さっきも聞いた」
「暑いものは暑い。何度言っても事実は変わらない」
「あなたが何度言っても、気温も下がらない」
「そこを何とかするのが騎士の仕事じゃないのか」
エリナは水筒の栓を抜き、黙ってタヌキの前に差し出した。
タヌキは少しだけ顔を上げる。
「ぬるくない?」
「飲まなくていい」
「飲む」
タヌキは水筒の口に鼻先を寄せ、器用に水を飲んだ。

ひとしきり喉を潤すと、満足そうに息を吐く。
「冷たい。合格」
「何の審査なの」
「旅の同行者としての適性審査」
「まだ続いていたのね」
「当然だ。人間は油断ならない」
「罠から助けて、医者に運び、食事を分けて、毎晩あなたが寒くないよう外套まで貸している人間でも?」
「そういう親切な人間ほど、あとで高額な請求をすることがある」
エリナは水筒を取り返し、自分も一口飲んだ。
「では請求する」
タヌキの耳がぴくりと動く。
「いくらだ」
「今夜の見張りを半分」
「却下」
「即答ね」
「僕は夜行性だが、夜通し起きていられるとは限らない。夜行性という言葉を、人間は便利に解釈しすぎる」
「あなた、夜になると私の毛布の上で寝ているものね」
「毛布ではない。適度に温められた安全な場所だ」
「私の足の上だけれど」
「位置は重要ではない」
「寝返りが打てないの」
「騎士なら忍耐を身につけるべきだ」
エリナは静かにタヌキを見下ろした。
タヌキも顔を上げ、しばらく見つめ返す。
「……何だ」
「今夜から地面で寝てもらう」
「それは横暴だ」
「適度に冷えた自由な場所よ。好きなだけ寝返りも打てる」
「君は時々、妙に意地が悪いな」
「あなたから学んだ」
タヌキは不満そうに鼻を鳴らし、再び前脚の上に顎を置いた。

街道の向こうを、荷馬車がゆっくりと通り過ぎていく。
車輪の音が遠ざかると、辺りには葉擦れと鳥の声だけが残った。
「エリナ」
「何?」
「次の町には、菓子屋があるかな」
「地図には市場があると書いてある」
「市場ではなく菓子屋だ。重要なのはそこだよ」
「昨日、蜂蜜菓子を食べたでしょう」
「あれは昨日の菓子だ」
「昨日の菓子は、今日になると無効なの?」
「記憶には残る。腹には残らない」
「立派な理屈ね」
「食べ物に関する僕の理屈は、いつだって立派だ」
エリナは荷物袋から、小さな包みを取り出した。
布を開くと、中には干した果実が三つ入っている。
タヌキはすぐに起き上がった。
「それは?」
「非常食」
「非常事態だ」
「どこが?」
「僕の腹が空き始めている」
「さっき昼食を食べたばかりよ」
「空腹に時間の長短は関係ない。重要なのは、本人が空腹を感じているかどうかだ」

エリナは干し果実を一つつまみ上げた。
タヌキの目が、その動きを追う。
右へ動かせば右へ。
左へ動かせば左へ。
「犬みたい」
「今すぐ訂正しろ」
「では、タヌキみたい」
「最初からそう言えばいい」
エリナは干し果実を差し出した。
タヌキは受け取ると、前脚で大切そうに抱え、少しずつ齧り始めた。
「おいしい?」
「まあまあだ」
「返して」
「とてもおいしい」
エリナの口元が、ほんの少しだけ緩んだ。
タヌキはそれに気づいたが、何も言わずに果実を食べ続けた。

しばらくして、エリナは樫の幹に背を預け、目を閉じる。
「少し眠るわ。何かあったら起こして」
「見張りを押しつける気か」
「同行者としての適性審査よ」
「僕はまだ合格していないんだろう」
「だから試験するの」
「不合理だ」
そう言いながら、タヌキはエリナのすぐ隣まで移動した。
白い外套の端に丸くなり、街道の方へ顔を向ける。
やがて、エリナの呼吸が静かに整っていった。
タヌキはちらりと彼女を見上げる。
風に揺れる白金の髪。
旅の疲れが僅かに残る、眠った横顔。
「まったく、油断しすぎなんだよ」
小さな声で呟き、再び街道へ目を向けた。
それからしばらくして、エリナの手が眠ったまま動き、タヌキの背中にそっと触れた。
「……起きているだろう」
返事はない。
「寝たふりをしても分かるぞ」
それでも返事はなかった。
タヌキは少し迷ったあと、その手を振り払わずに、もう一度丸くなった。
「今回だけだからな」
木漏れ日が揺れるたび、白い外套の上に、金色の光が静かに踊っていた。

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