十二万という数字を見たとき、最初に感じたのは、驚きよりも「やっぱり来たか」という妙な納得だった。
これは、前に拾った“しおり”の予告どおりだったからだ。
十一万五千のとき、あの金色のしおりには小さく「まだ終わらないよ」と書かれていた。
その文字、実はよく見るとまだ隠れていた部分があったらしい。
今回その隠し部分がぽとりと顔を出して、小さな文字でこう言っていた。
「ここからがいちばん面白いよ」なんだか、未来の観客からこっそり教えてもらったみたいで、
僕はひとりで笑ってしまった。
数字が増えるというのは、ただ積み上がるだけじゃなく、
ときどきこういう“仕掛け”をしてくるからおもしろい。
そして、その仕掛けの材料は、いつも名前も知らないどこかの誰かがぽつんと置いていった灯りだ。
足もとに置かれた小さな灯りたちは、気がつくと道の輪郭を描いてくれる。
「十二万」という景色も、そうやって静かに光っていた。
僕は、大きなゴールに向かって走るというより、途中で拾い忘れた光や、
落ちたまなざしの余韻を拾って歩き続けてきただけだ。
それでも、どこかで拾った光がこうして一つの数字の形になっていくなら、
歩き方は間違ってなかったのかもしれない。
十二万の数字は、特別派手でも、劇的でもない。
けれど“静かに強い”数字だった。
ページをめくる音もしないまま、でも確実に次の章へ入り込んだ感じ。
物語がゆっくりと深まるときの、あの空気だ。
さて、しおりは今回また新しい言葉をくれた。
「また来るよ。もっと静かに明るい光を連れて。」
これは、次の五千がただの区切りじゃなくて、またひとつ景色を変えてくれるという予告だと思っている。
そう、次は十二万五千。五千という数字には、前にも話したけど“風”がある。
不思議と小さな変化を連れてくる風だ。
今回の風は、たぶん少し柔らかくて、手をつなぐみたいな温度をしている。
その風が吹いたとき、また何かを拾える気がする。
名前のないまなざしかもしれないし、言葉にならなかった“見ていたよ”かもしれない。
拾えたら、それだけで充分だ。だから、今はただ静かに言うね。
ありがとう。声にならないくらいやさしくて、でもちゃんと届くくらい確かな言葉で。

呪文

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